先日, とある学会に参加したときのこと, 学生さんの発表に対し, 別の大学の先生が 「その現象については, 私がかつて研究して結論を出している. 私の文献を調べて欲しい」と いうようなことを言っていた. 多分, その先生の言ったことは正しいのだろうが, では 何故, その先生の研究成果が冒頭の学生に伝わらなかったのか? ということを考えた
その学生の調査不足と言ってしまえばそれまでだが, 敢えて学生の肩を持つとすると, 関連の情報がアクセスしやすい状態でまとまっていないのが原因だろう. 仮に, その 現象のメカニズムが完全に分かっていれば, 例えばシミュレーションソフトという 形で知識をまとめることができる. しかし今回の件に関して言えば, シミュレーションで 再現できるほど単純 (最近のシミュレーション技術は, 以前よりも複雑なことを取り扱える が‥) ではないものであった
別の視点で「論文が積み上がったら, 1 冊の本にまとめれば良い」というアイデアも ある. しかし最近の「学術書が売れない」風潮を考えると, わざわざ本を出版する モチベーションが, 筆者にも (すでに論文を書いてるし, 読む人が少ないなら書く 意義が無い) 出版社にも (売れない本は出さない) 無い. ただ, この風潮を突き詰めると 「難しい本を学生が読まなくなったから, 難しい本が出版されないのだ」となり, 学生を 責めることになってしまうので, 「ニワトリと卵」的な議論に陥ってしまうのだが‥
今回の件に対しては, 私は解決策案を持っているのだが, それを その先生に提案すると怒られてしまいそうなので, 発言するのを躊躇している. しかし一般的にこんな「車輪の再発明」的な問題はいろんなところ (学会内だけでなく, 例えば 既に大学で研究しているのに, 企業がそれを知らずに懸命に後追いしているなど) で 起きていると思うし, 特にリソースの少ない日本に住む人間としては, 何とかならないもの かと思っている. さもないと, S/N 比の低い文献を人海戦術で解読できるようなところに 油揚げをかっさらわれてしまいかねない